住まいの設計

ミニマリスト設計士が実践するしっかり納まる収納設計術

藏岡 三郎

住まいづくりの現場に身を置くと、沢山の要望・お悩み事に接する機会があります。皆さんのお悩み事は一体何でしょうか?毎回上位3位には入ってくるのが今回のテーマ「収納」です。多くの方が新しい住まいでは「住み心地のよい片付いた家」を望まれます。私はこれまで沢山の方の「収納」に向き合ってきました。この記事では私が実践している再現性の高い「収納設計術」をお伝えします。この記事を読むと皆さんの家が今よりも少し片付くはずです。それでは始めましょう。

藏岡 三郎
藏岡 三郎

皆さん、こんにちは。藏岡です。今回は「収納」をテーマに深堀りしていきましょう。20年以上の設計歴から辿り着いた結論を先に申し上げます。収納設計術=(場所+収納容量)×インテリア です。なんだか数学の公式みたいですね。でもどなたでも実践してもらえれば必ず片付けられる様になりますよ。

(動線+収納容量)×インテリアとは・・?

土台となるのは(動線+収納容量)という考え

収納設計術というと収納の大きさやサイズにフォーカスしている本や解説が多く感じます。しかし、私がこれまで設計してきて気づいた事は「収納容量」に加えて「動線」の大切さです。例えば料理。料理はキッチンで行いますね。料理に必要な食材がキッチンの近くにあると便利だと思いませんか?キッチンから離れた場所に容量たっぷりの食品庫があっても取りに行くのが面倒ですよね。「藏岡さん。何を当たり前のことを言ってるの?」という声が聞こえてきますが、ほとんどの方が「何を」と「どのくらいの量」は整理できていても「どこで」まで整理できていません。私が収納設計する際は、下のようなリストに記入してもらいそれにヒントにその方に適した場所に収納を配置しています。この(動線+収納容量)という視点が私の収納設計術の土台となる考え方です。

それでは具体的に整理された動線と収納について例を挙げて説明していきましょう。
①キッチン
「玄関(勝手口)⇔パントリー⇔キッチン⇔ダイニング」ルート
 キッチンで使う食材はスーパーマーケット等外部から入ってきます。そして調理され  るまで一時的にパントリーまたはパントリーの中の冷蔵庫の中で保管。キッチンで調理された食事はダイニングにサーブされ家族で楽しい食事をします。
共働き家庭の場合、週末に一週間分をまとめ買いして冷凍庫に保管する事もあります。そうなると冷蔵庫の横に冷凍庫スペースと電源を確保します。竣工後あとからやっぱり冷凍庫を置きたい!となってもキッチンは満席。おのずとダイニングやリビングの一角の置かざるを得なくなり、理想のインテリアから一歩遠のいてしまう・・。

②サニタリー
「浴室⇔脱衣場⇔洗面所⇔ファミリークローゼット⇔廊下」
 浴室では皆さん着衣を脱いで入浴しますね。その為、浴室と脱衣場は隣り合っている必要があります。多くの間取りでは脱衣場と洗面所が兼用になっていますが、ゆとりがあれば分けたいところですね。思春期の娘さんがいるお父さん。娘さんが入浴中、なんだか歯磨きに脱衣場兼洗面所に行くの躊躇しませんか?
夜、お風呂からあがったら濡れた体をタオルで拭いて寝巻きを着用します。この行為だけで「タオル」「下着」「寝巻き」が登場しました。さらに髪を乾かす「ドライヤー」や「化粧水・美容液」も収納できる便利ですよね

この様に自分達が現在どんな風に暮らしていてどんな風に暮らしたいのかを頭の中でシミュレーションしてみましょう。皆さんはそれを建築士に伝えればOKです。間取りまで考えることはありません。誠実な設計士であれば必ず対応してくれます。

キレイに片付いたインテリアが持続する効果

適正な動線上に十分な容量の収納があると、キレイに片付いた自分の理想とするインテリアの状態ができあがります。逆を言うとこの土台が無いと理想の状態を保つことが非常に難しい。理想とするインテリアの状態にする為にバラバラになった収納にモノを片付けるのに3時間かかるとなると毎日続けられません。お子さんがいる家庭なら尚のこと難しいですね。(動線+収納容量)が整合していると理想のインテリアをキープするハードルが一気に下がります。そうなると今度は多くの方がさらにこの状態を続けようという気持ちに変わります。このサイクルが発生すると、おめでとうございます。片づいていないインテリアから卒業です。片付いたインテリアが手に入っただけではなく、住まい手の心にも変化が表れ始めます。

キレイを保つメンテナンスのコツ

究極的に言うと「頑張りすぎない」これが極意かもしれません。私たちは毎日毎日一生懸命に働いて、勉強して、必死に生きています。外では緊張して張りつめていてもソコは自分の家。少しさぼる位が丁度よい。
収納するモノと場所をざっくりと分類・整理したらあとは手頃なカゴの中にポイポイと入れておきましょう。細かくラベリングも不要。家の中で「誰=何」が「どこ=住所」がわかっていればそれで充分です。SNSでは収納の中が端から端までピッチリと整頓され、これぞシンデレラフィット!という発信をよく見ますが、全く不要です。それが趣味・快感だという人は存分にお楽しみくださいませ。でも暮らしの豊かさってそこじゃないよね。というのがわたし・藏岡のホンネです。

片付けの心理学

キレイに片付いたインテリアの中で暮らしていると住まい手の気持ちにも変化が表れると書きました。「この片付いた状態をキープしたい」「不要なモノを買わないようにしよう」といった変化です。なんだかスピリチュアルなお話の様ですが少し違います。すごくシンプルで皆さんもご経験があるのではないでしょうか。続きを読み進めていきましょう。

テーブル理論

学生時代、世界的な建築家・妹島和世さんのアトリエでオープンデスクとして働いていた時のことです。学生・藏岡はテーブル理論に出会いました。それはこんな内容です。あるスタッフのテーブルはいつも端から端までモノであふれていて作業がしにくい。そこでもう一台テーブルを買って快適に仕事しようとしたところモノでいっぱいのテーブルが二個できあがり結局仕事は進まなかった。という話です。要は当人の気持ちが変わらないといつまでたっても片付いたテーブルは生まれない。いくらテーブルを広げても同じ結果になるだけです。これは収納設計においても同じ事が言えます。心地良いと感じるインテリアの為には「住まい手の気持ち」と「収納」が歩み寄る事が必要です。
以前の自己紹介の記事で書いた片づけられない富裕層たち。あの方たちはきっとこのスタッフと同じ思考のはずです。「収納が足りない!」と叫び続けてモノに囲まれたストレスの中で暮らすことになります。自分が変わらないと抜け出せないことに気づていないのです。

ミニマリズム

自分にとって拠りどころとなったのが「ミニマリズム」という考えです。「ミニマリズム」というと部屋に何も置いていない非常にストイックなインテリアを想像する方もいますが、それはごく一部の方です。私はミニマリストですが家の中には少ないですがモノがちゃんとありますし、テレビだってありますよ。(ほとんど視ませんが・・)私の「ミニマリズム」に対する考えは下記に詳しく書き記しましたので併せてお読み頂けると嬉しいです。根本にあるのは「幸せに暮らす為には多くのモノは必要ない。逆に多いと幸せが見えにくくなる」という想いです。

モノを買う為にはお金が必要で、お金の為に仕事をする。沢山稼ぐために長時間勤務して家にいる時は疲れていて寝てばかり。以前の私です。これでは何の為に生きているのかわかりませんね。ミニマリストになって数年経ちますが、本当に必要なモノって本当に少ないですよ。高級車やハイブランドのジュエリーや高級時計は興味がなくなりました。その為にお金を使うなら大切な人たちとワイワイ食事をする事に使いたいですね。最初はハードルが高いと感じるかもしれません。1~3か月間と期間を決めて実践してみましょう。きっと色々なことに気づくと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は「収納」をテーマにお話しました。私が収納設計する際に考えている事は(動線+収納容量)×インテリアという考え方です。適した場所に適した量の収納を用意するとキレイに片付いたインテリアが出来上がります。その結果住まい手の心理に変化が起きて、片付いた状態を保とうとする。さらには上質でお気に入りのモノだけを厳選する目が養われ、少ないもので豊かに暮らすことができるようになります。最初から厳格にスタートさせる必要はありません。期間を決めたり、キッチン廻りだけ等カテゴリーを決めて小さく始めてみてください。何事もスモールスタート。トライアンドエラーを繰り返して皆さん一人ひとりにあった暮らし方を見つけて下さいね。最後まで読んで頂きありがとうございました。藏岡三郎でした。

this is ME
藏岡 三郎
藏岡 三郎
一級建築士
設計歴20年以上の一級建築士
離婚を機にミニマリズムに目覚める。
現在小さなミニハウス(自宅)を設計中。
神社巡りが好き。自宅の神棚で朝晩お参りが日課。
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