住まいの設計

ミニマリスト設計士が実践する台所設計の工夫

藏岡 三郎

これまで沢山の注文住宅を設計してきました。その中でこだわりたい部屋上位に必ずはいってくる部屋が今回のテーマである「台所」。洋風に言うとキッチンです。この記事を読むとミニマリスト設計士が実践している台所設計の工夫を知る事ができます。台所のココに棚があると便利!的なお話ではなく、台所に対するゆるい考え方を書いています。これから住まいづくりを検討中で台所が気になる方に有益な情報となります。是非最後までお読みください。それでは始めましょう。

藏岡 三郎
藏岡 三郎

皆さん、こんにちは。藏岡です。今回のテーマは「台所」私のお気に入りのスペースについてです。またキッチンは住まい手のこだわりが現れやすいスペースです。この記事を読んで一緒に考えていきましょう。

台所設計の工夫

①既製品を上手に取り入れる

既製品台所部材というと建築家が忌み嫌う部類かと思う方もいらっしゃいますが、私は至って中立な考え方です。各メーカーが長年商品開発してきた部材ですから当然機能性レベルが高いものが多い。確かに見た目がちょっと・・という部材もあります。そんな時は建築、造作でカバーして使えばよい。既製品を上手に取り入れて見た目も、機能性も、コストパフォーマンスもよい台所を目指しています。
 しかし、この商品開発に最近過熱しすぎかなと感じることがあります。各社の差別化が本当に細部、細かなところに向かっている気がします。オーバースペック競争ですね。パナソニック社とリクシル社は流行を開発・追従し、コストパフォーマンスが良い傾向があります。タカラスタンダード社はホーロー素材を強みに商品展開していますしクリナップ社はステンレス加工技術が高く耐久性、耐劣化性を前面にだしています。各社ともに80点以上の機能性は充分とれています。住まい手が気に入ったポイントがあって導入コストが高すぎなければどのメーカーでもよいと考えています。
 一方で世界に一つだけのキッチンが欲しいという方にはオーダーメイドキッチンが適しています。私も何軒もオーダーメイドキッチンを設置した住まいを設計してきました。オーダーメイドキッチンは細かく素材や機器を指定できますがかなり高価です。多くの方には不向きな商品だと感じます。
 既製品部材を上手に取り入れるのが設計士の腕の見せ所でもあると思います。

②素材・器具は適材適所。シンプルに

天板:ステンレスはバイブレーション仕上がおススメ

これまでの台所の天板といえばステンレス製か人工大理石製の二択がほとんどでした。最近になってセラミック製の天板が登場し、ちょっとしたブームになっています。セラミック製天板は見た目が目新しく高級感があり、高価格帯キッチンにのみ適用されるケースが多い。しかし私はこれまで長く使い続けられてきたステンレス製天板を推しています。理由は耐久性とメンテナンス性です。私の実家の台所もステンレスでいまだ現役。本当に丈夫です。表面の仕上げがヘアライン、エンボス、バイブレーションの3種類がありますが私は表面の劣化が目立ちにくく見た目もミニマムで良いバイブレーション仕上げを第一候補にしています。

コンロ壁:磁器質タイルは細目地で

コンロ壁は調理中の油ハネや湯気が当たる壁面です。クロス仕上げだとあっという間に劣化してしまいます。そこでコンロ壁はキッチンパネルやステンレスや磁器質タイル貼り保護します。ステンレスは壁に貼ると冷たい印象を受けるので、藏岡は磁器質タイルをお薦めしています。300㎜×600㎜などのすこし大きめのタイルを細目地で貼ります。目地に汚れがつくと落ちないケースが多いので目地が少ない大判タイルを採用します。

扉面材:シナ合板かメラミン化粧板で迷い中

既製品キッチン部材では扉面材のグレード選択を求められます。グレードによって価格が異なり、多くの場合標準グレードから10%、20%程度価格が上がります。藏岡の場合、メラミン化粧板の場合は白っぽい非鏡面材またはシナ合板貼りを選択します。シナ合板は風合いがよいのですがコストが上がるので毎回悩みます。

シンク:原点回帰のステンレス製

シンクは毎日毎日使われて、汚れやすい部分ですね。水垢が気になる方も多いでしょう。人工大理石製のシンクとステンレス製のシンクが多いのですが藏岡はステンレス製を推しています。天板と一体で製作することができ、キムチやニンジンなど色素沈着が起きやすい食品にも耐えらえるからです。人工大理石製シンクは導入時は白くキレイなのですが日々の掃除やメンテナンスによっては劣化が一気に進むことがあります。

水栓金物:センサー式で掃除回数激減

センサーなんて贅沢!何で!?と思われる方もいますが、本当便利です。使い方というよりもセンサーで吐水と止水を操作するので水栓根本が水浸しにならない点が便利ポイント。そう、掃除回数が激減します。見た目がちょっとゴツイので、もう少しシンプルなデザインが早く出ないかなーと思っています。

レンジフード:汚れがガンコ。清掃性を重視

レンジフードのお掃除大変ですよね。年末時期にわたしも掃除しています。レンジフードの汚れは調理中にでる油分を含んだ湯気です。それがホコリ等の結合してガンコでおちにくい状態になります。レンジフードも様々な商品がありますが清掃性を重視しましょう。月一回の簡易清掃をすれば、分解清掃は数年に一回というレンジフードもあります。

食器洗い乾燥機:国産・浅型でも十分活躍

インスタグラムを見ると食器洗い乾燥機は海外製の深型がよい。という投稿をよく見かけます。しかし藏岡は国産の浅型でも十分だと思います。先ず、食器洗い乾燥機では人の手だと荒れてしまう洗剤濃度で食器を洗うので、国産でも海外産でもピカピカになります。その上で深型は鍋やフライパンまで洗えるのですが加熱調理した鍋やフライパンは洗い残しが頻発し、結局手でゴシゴシ洗うことになります。修理時対応の速さを考慮して国産、浅型で十分です。海外製がお好きな方はブランド志向だなぁ・・そこじゃないのになぁと思ってしまいます。

③収納は広げ過ぎない

食器・調理器具を吟味する

・食器の色は白が基本。料理の色が映える色。
・調理器具は一組あればよい。調理中にサッと洗って何度も使う。
・銅製の鍋や土鍋等、重量感のある一生ものを大切に扱う。

収納は重ねる・立てる・吊り下げる

・食器は同じシリーズを購入すると重ねやすく省スペースに納まる
・フライパンや鍋はブックエンド等を使って立てて収納
・細かな調理器具は手の届く範囲に吊り下げる

パントリーは作っても最小限

・基本買いだめはしない。街がパントリーの一部。
・パントリーは作っても0.5畳から1.0畳。大抵持て余します。
・パントリー棚は奥行を小さく(200㎜~300㎜)棚奥はデッドスペースになりがち。

台所は住まいの中心

食事は最強のエンタメ!?

住まいの中心はどこ?と聞かれたことがあります。私は迷わず台所+食卓だと答えます。再婚をして気づいたのは愛する家族と一緒にとる食事は最強のエンタメだと言う事。その日にあった出来事を食事をしながらアレやコレやと話して声をだして笑いあうのです。本当にかけがえのない時間の過ごし方。これはキッチンで調理するところから始まります。テレビや動画配信サービスといったノイズは遠ざけて、家族で協力してご飯をつくって一緒に食べる。何て贅沢な時間でしょう。朝日があたる食卓もいいですね。豆から挽いて淹れた美味しいコーヒーを休日の朝に飲むと最高です。最強のエンタメは四角いモニターの中ではなく、あなたのすぐ横にあるのです。さぁパートナーと一緒に台所に立ちましょう。

シンプルで十分。育てる余地をつくっておく

台所に限ったことではありませんが、住まいを設計していると完成時をピークに考える方が少なからずいらっしゃいます。引越しする直前が最高到達地点であとは使い始めてキズがついたり汚れたりしていく・・つまり劣化。なんと寂しいことでしょうか。それよりも住まい手である皆さんが手を入れてどんどん工夫して住みやすくする方がよほど健全です。台所の様な機能性要素が強い部屋は最初はシンプルで十分。調理中ちょっとボウルを置きたいな、ちょっとこのお玉引っかけておきたいな等住み始めてみると気づくことがどんどんと見えてきます。ガチガチに考え抜かれたパーフェクトキッチンよりもちょっとゆるい感じで余地があるほうがあなたの暮らしにフィットするはずです。置くものを決めない棚板を一段つくるとか、引っかけるフックが取り付けられる木部を残しておくなどが余地ですね。壁の中に木下地をつけておくのも有効な手法です。幸せそうな台所はほぼ100%住まい手の工夫があちこちにあります。その分愛着がわくので長く使える。とのことです。

基本は壁付・セミクローズ

最近の台所設計は基本的に対面式がほとんどです。いわゆるオープンスタイル。対面式でダイニングテーブル横並びスタイルが最近のトレンドです。(2024年6月執筆)藏岡の台所設計基本は壁付式でセミクローズです。具体的な間取りは下の様な間取りですね。
台所は室内で火がでる唯一の部屋。調理によって空気も汚れがちなので外から新鮮な空気を取り入れて換気したい。台所は隅っこに追いやられる事が多いのですが窓のある明るい台所は調理していて気持ちよいものです。ダイニングとはオープン過ぎずとゆるく繋がっている距離感で。配膳や後片づけは近くて便利ですし、こもって集中して調理することもできます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は「台所設計の工夫」をテーマにお話しました。台所は住まいの中心。台所の満足度が高いとそれだけ幸せな住まいにより近づきます。高価なオーダーメイドキッチンを取り入れて竣工時に満足するのではなく、既製品キッチンを上手に取り入れて、徐々に育てていくスタンス位が丁度よい塩梅。その為の細かな工夫や考え方をお伝えしました。注文住宅の台所設計のヒントになれば幸いです。
台所の横にあるダイニングルームについては下記リンクよりお読みください。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。次の記事でお会いしましょう。藏岡三郎でした。

ダイニングルームの設計ポイント3選とミニマリスト設計士のこだわり3選
ダイニングルームの設計ポイント3選とミニマリスト設計士のこだわり3選
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藏岡 三郎
藏岡 三郎
一級建築士
設計歴20年以上の一級建築士
離婚を機にミニマリズムに目覚める。
現在小さなミニハウス(自宅)を設計中。
神社巡りが好き。自宅の神棚で朝晩お参りが日課。
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