ミニマリスト設計士が選ぶ断熱材とその選定理由
皆さんが求める住まいの性能はどんなものがあるでしょうか?耐震性能やデザイン性等様々ありますが、この記事では近年最も重要な性能と言われている断熱性能についてお話したいと思います。この記事では断熱設計経験豊富な設計士による断熱材解説と現時点で最適解だと考える断熱材のメリットデメリットを紹介致します。
皆さん、こんにちは。藏岡です。今回は住まいづくりにおいて重要項目である断熱計画について筆者が考える最適解を交えてお話したいと思います。
断熱材とは?
断熱材とは住まいの外側と内側における熱の移動を減少させる素材を指します。身近な例で言うと発泡スチロールですね。東京の豊洲市場に行くと、鮮魚が白い発泡スチロールの箱に氷と一緒にはいっていますよね。箱の中は低温に保たれ鮮度がキープできます。発泡スチロールが熱の移動を妨げているので外気温の影響を受けない。住まいも同様に外壁に断熱材が入っていれば暑い夏も涼しく、寒い冬も暖かく過ごせますね。この断熱材、種類は大きく3分類。①繊維系②プラスチック系③天然素材系です。この記事では詳細は割愛しますが、そこからさらに原材料や施工方法により細かく分類されます。
現時点の最適解断熱材はコチラ
結論、私は繊維系断熱材のロックウールが現時点では最適解だと考えています。ロックウールは鉱物由来の原材料でできておりは火や湿気に強い断熱材。防湿フィルムに包まれた状態で納品され、職人さんが柱と柱の間に手作業で一つずつ施工します。厚みは一般的な柱サイズである105㎜を採用するケースが多いです。熱伝導率は0.038程度となり中程度の断熱性能となっています。
ロックウールのメリット・デメリット三選
メリット三選
【コストパフォーマンスがよい】
断熱材の一番の役割は熱を通しにくくすることです。この性能を示す熱伝導率から性能を比較すると下記の様になります。(外壁断熱を想定)
【低】ウッドファイバー<グラスウール<ロックウール<吹付ウレタンフォーム【高】
一方で施工コスト(材料費+人件費)を比較すると下記の様になります。
【低】グラスウール<ロックウール<吹付ウレタンフォーム<ウッドファイバー【高】
以上からロックウールはコストパフォーマンスに優れた断熱材であると判断しています。さらに下記の難燃性と耐水性の高さから総合的に判断して私はロックウールを採用しています。
【燃えにくい】
ロックウールの原材料は鉱物。分かり易く表現すると「石」です。「石」は火にあたっても黒く焦げ付く程度、火に強いことは皆さん理解し易いと思います。近年、流行している吹付ウレタンフォームや頻繁に採用されるグラスウールは原材料の特性から火災に対する弱点があるため、私は採用をしていません。自宅の火事以外にも隣家の火事によって断熱材が劣化するリスクも想定しています。
【湿気に強い】
こちらも原材料=「石」ということで湿気に強い断熱材=ロックウールとなっています。私達設計者が気にする湿気とは外壁の中で起こる内部結露。内部結露が起きると水分が室内に漏れるだけではなく断熱性能が著しく低下し、住まいとして成立しなくなってしまいます。吹付ウレタンフォームはスキン層以外は湿気耐性が低いためロックウールウールを採用しています。
デメリット
施工精度のバラつきがある
ロックウールは防湿フィルムに包まれた状態で現場納品されます。基本はその状態のまま外壁の柱と柱の間に手で詰めていきます。この際にコンセントボックスや電気配線の周囲で隙間があいたり、カットしてから詰め込む際防湿フィルムが破れたりと職人さんの熟練度や性格によって施工精度にバラつきがあります。隙間は断熱欠損となり熱が筒抜けになる上、結露を起こしかねません。
重い
ロックウールの原材料が鉱物であることはお話しましたね。単純に重たいのです。そうなると外壁の中で自重で下に沈んでしまうという現象が起きています。これも職人さん次第な部分も大きいのですが、素材起因の問題点だと思います。グラスウールや吹付ウレタンフォームは軽量のため、このような事象は起きていません。
誤解されたイメージ
皆さん「石綿」って聞いたことないでしょうか。数十年前の日本で採用されていた建材です。吸い込むと肺がんのリスクが高まり、現在は使用禁止にまでなっている危険な建材です。「石」=ロック、「綿」=ウールと解釈され、これら二つは同じ建材だと誤解される方がいらっしゃいます。年配の親御さん達に説明すると「危ないから辞めなさい!」と言われてしまうかも。繰り返しますが誤解です。ロックウールは安全な断熱材です。
それではこれらデメリットを補うために私が設計段階及び工事段階で注意している事を次に説明したいと思います。
設計・現場監理で注意していること
耐力壁は筋交いではなく面材で
住まいの耐震性を高める耐力壁。この耐力壁は筋交いという斜め柱の様な部材で構成する場合と厚い面材を柱に固定して構成する場合の2パターンがあります。実は前者の筋交いはロックウールを詰め込む際に邪魔になるんですね。職人さんはわざわざ筋交いの形に沿ってロックウールをカットしてから詰め込みます。その際に断熱欠損である隙間ができてしまうのです。面材耐力壁の場合はカットせずそのまま詰め込む事ができるのでミスも少なく安定した施工精度を保てます。
コンセントボックスを外壁に設置しない
上の筋交いと同じ考え方です。コンセントボックスも施工の邪魔になる障害物です。その為、私は電気設備計画をする際に断熱材が入る壁にはコンセントボックスを設けません。断熱材が入らない内部間仕切り壁に移動させるか、どうしても移動できない場合は壁を一部分厚くしてコンセントボックスを設ける様にしています。施工上支障となるものを設計段階から取り除くことでシンプルでミスの起き難い状況をつくっています。
防湿シートを追加施工
ロックウールはロール状で現場納品されます。ロックウール本体の表面、裏面共にフィルムで包まれており、フィルムのミミ部分をタッカーで留めつけていきます。このフィルムも防湿性能はありますが、私が設計する際はこれに加えて0.2㎜以上の防湿シートを追加で全面貼りします。断熱性能を著しく落とす建物内部の湿気を壁の中に侵入させないことが主たる目的。本当に意味あるのか?必要か?と工務店さんに質問されることもありますが、理由を懇々と説明して理解してもらっています。実は以外と「知らなかった」という工務店さんが多いのも事実です。
サーモカメラで現場確認
コレ、実は職人さんにはすごく嫌がられます。サーモカメラ現場確認。ここまでする設計士は少ないかもしれません。サーモカメラは写すと温度分布が色によって識別できる特別なカメラです。ロックウール施工後にサーモカメラで断熱箇所全体を写してチェックします。色が違う箇所はすき間が空いている事になるので職人さんに伝えて補修をします。
完全無欠の断熱材というのはありません。素材の特徴を理解し活かしながらもデメリットをなくす様な設計面・施工面での工夫が重要だと考えています。
まとめ
断熱性能は住宅の快適性に直結するとても重要な性能です。私がお薦めする断熱材はロックウールです。その理由はコストパフォーマンスの高さと難燃性と耐水性です。しかしいくつかのデメリットもあります。そこで私は設計段階から外壁内に施工の障害になる筋交いやコンセントボックスを設計しないこと。防湿フィルムを追加で貼ること。そしてサーモカメラを使って断熱欠損がないかチェックすることでデメリットを解消しています。今回の解説が皆さんの自分らしい住まいづくりに貢献できれば幸いです。この記事の感想やご質問は下の問い合わせフォームからお願いいたします。
最後まで読んで頂きありがとうございました。藏岡三郎でした。